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2020.05.23

ヨーロッパの「然び(さび)」

 では「然び」はどうだろうか。

 「然び」とは、内から出てくる輝きの事である。それは整然としたものでもある。侘びが簡素なのに対して、より艶を持ったものである。勿論それは抑制されたものではあるが、数寄屋の様に決まった形を造形し、茶会の様に美を意識する演出を行なう。簡素は同時に整然さを求められ、古きが尊ばれる。渋い色合いを見せて落ち着きがあり時を遡る奥床しさなら、ヨーロッパの古き街並みを歩くといい。全ての条件が具わっている。果たしてこれだけの条件をクリア出来る街が日本のどこに在るだろうか。

 京都の一部や馬籠宿といった昔の宿の類や白川郷の様な所にしか、最早、その様な空間を目に出来る所はない。江戸時代ならば、大名屋敷にしても神社仏閣にしても、商人の町にしても、貧乏長屋にしてもその全てに「侘び然び」が有されていた。しかし、現在の街並みを比較した時、果たして日本の方がヨーロッパに勝っているとは、とても考え難いのである。 これらの感慨は、一つの条件を必要とする。

 それは汚物に塗れていないことだ。例えばインドの場合は、要所要所で歴史的史蹟などが在るのだが、管理が悪く、また周辺に人糞をする習慣の国民性の為に、うっかり草叢に入ると大変なことになるのである。そういう所では、いくら古めかしいからと言って、侘び然びの世界とは言い得ないのである。それは「侘び」は飽くまで「美意識」の追求であるからである。

(『侘び然び幽玄のこころ』第四章 ヨーロッパに於ける「侘び然び幽玄」 ヨーロッパの然び)