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2020.10.11

『タオと宇宙原理』〈48〉第一章 意識と科学 古代の叡智と量子仮説

◆宇宙の「人間原理」とは何か

 初めてこの言葉を知ったとき、いったい物理学は何を言い出したのだろうと、いぶかしく思ったものだ。人文系の学問なら分かるがよりによって数式と実験で固められた物理学の世界で、人間の存在が宇宙を創った、という論の展開には唖然とさせられたものである。しかし、読めば読む程、科学者たちは本気でそう語っていることが分かり、更に驚いた。しかもその最初の発表は一九六一年であり、アメリカの物理学者ロバート・H・ディッケが書いた「宇宙の人間原理」の論文であった。

 生命進化のプロセスを追いかけていくと余りにも偶然の重なりの連続でその発生の確率は限りなくゼロに近いものである。ビッグバンに始まった宇宙の歴史は人間という知性と出会うことで成立するのではないかというものであった。この知性が宇宙を探索し始めたのは宇宙自身がそれを求めていたからであるとしたのである。物理学という立場にありながらこの突拍子もない意見には唖然とさせられるばかりであった。物理定数を求め続けてきた科学者たちが遂に、宇宙の原理そのものを何らかの「意志」と考えるに到ったのである。しかしそれは、その背景にそれなりの論理の展開あってのことであった。すなわち量子論の発展に伴う素粒子が観測者の意志によってその存在を決定するというボーアらの実験結果がその主張を支えていたのである。

(『タオと宇宙原理』第一章 意識と科学 古代の叡智と量子仮説 宇宙の「人間原理」とは何か)