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2020.06.12

雨の中の農作業

 筆者の里では、巨大台風よりも梅雨の方が辛かったものだ。五月下旬から七月初旬にかけての一カ月半に亘る梅雨は、精神的にきついものがあった。その間、太陽を見ることが稀であるだけでも憂鬱になってくるのだが、それ以上に辛いことは、毎日降り続ける長雨である。凡そ本州の人たちには理解出来ないであろうこの長雨は、「シト、シト、シト、シト…」間断なく降り続けるのである。決して大雨ではないが、小雨が一カ月半も降り続けるのだ。勿論、降り止む日もあるが決して晴れることはない。初夏というのに肌寒く、心までもが滅入ってきそうになる。

 そんな中、大人たちは日常の生活を送り、特に筆者の心を惹いたのは、雨の中でも合羽を着て力強く働き続ける百姓の姿であった。彼らは只管、雨をものともせず黙々と働き続けるのである。それは、昨日も今日もそして明日も変わることなく続けられていく。

 雨期の農作業は合羽を着ているとはいえ、雨は全身の体温を奪っていく。また、重労働の折には合羽の内側は汗だくとなる。容赦なく降り続ける雨は手足に染み入ってもくる。泥水は飛散し顔にも付く。うんざりだ。一日二日なら誰も気にしない。しかし一カ月半も続くとなると話は別だ。だからと言って働かないわけにはいかない。田植えには欠かすことの出来ない雨も、だんだんと人々の心を憂鬱へと導いていくのだ。

 更に、長雨はもう一つの憂鬱を招いてくる。虫である。普段は外に棲息する虫の一部が室内へと移動し梅雨の間住みつくことである。質が悪いのは白アリだった。室内の隅々を無数の白アリが何週間も交尾し這い回るのである。夜、眠っている時に顔の上に落ちてこられるのには流石にうんざりしたものだ。ほとんど悪夢を見ている様であった。

(『侘び然び幽玄のこころ』第一章 侘び 日本人を決定付けた梅雨の存在)